偶然の出会いが人生を面白くする。信濃八太郎さんが愛する映画、カルチャー、モノ

SPECIAL INTERVIEW

〜人生を変えたエンタメとモノ〜

偶然の出会いが人生を面白くする。信濃八太郎さんが愛する映画、カルチャー、モノ

窓を背に立つ信濃八太郎さん

映画、スポーツ、音楽、ドラマ。誰にでも、その後の価値観や生き方に影響を与えた「人生を変えたエンターテインメント」があるはずです。本企画では、各界で活躍する著名人に、人生を変えた作品について伺うとともに、そんな「好きなエンタメ」をさらに楽しむためのアイテムをWOWOW百貨店から選んでいただきます。

今回は、イラストレーターの信濃八太郎さんが登場。人生を変えた映画やイラストレーターとしての原点、偶然の出会いから長く愛用するモノ、WOWOW百貨店から選んだアイテムについて伺いました。

信濃 八太郎(しなの はったろう)

イラストレーター。

1974年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科舞台装置コース卒業。学生時代より安西水丸氏に師事。2017年から2024年までWOWOWの映画番組『W座からの招待状』にて、脚本家・放送作家の小山薫堂氏と案内人を務める。2019年には全国のミニシアターを紹介する番組『W座を訪ねて〜信濃八太郎が行く〜』も担当。書籍や雑誌、広告、舞台美術などで活躍。

この記事の目次
  1. 人生を変えた映画との出会い
  2. 安西水丸先生との出会いで、イラストレーターの道へ
  3. WOWOWでの7年間のレギュラー番組出演で変化した、映画の楽しみ方
  4. 偶然の出会いを、長く大切にする
  5. 好きな世界をもっと身近に。信濃さんが選ぶ4つのモノ
  6. 憧れも、遊び心も。エンタメを日常に
  7. 偶然の出会いを、人生の楽しみに

人生を変えた映画との出会い

ー「人生を変えたエンターテインメント」と聞いて真っ先に思い浮かぶ作品を教えてください。

信濃さん:まず大学時代に影響を受けた作品から。1995年に公開された映画『スモーク』と、その姉妹版にあたる『ブルー・イン・ザ・フェイス』です。どちらも同じブルックリンのタバコ屋を舞台にした人情話。公開当時の僕は、日本人特有の「空気を読む」「喋らなくても理解し合う」という感覚がすごく息苦しくて、大学にもあまり馴染めていませんでした。そんな時にこの作品に出会い、「もっとはっきりと自分の考えや感情を口に出して良いんだ!」と思えるようになりました。

例えば、『ブルー・イン・ザ・フェイス』では、タバコ屋でひったくりをした黒人の男の子を、主人公のタバコ屋の店主が捕まえ、こっぴどく叱るシーンがあります。そこにキャリアウーマン風の女性が現れ、「子ども相手に何をしてるの!?」と、二人は言い合いになる。さらにだんだんと人が集まってきて、みんなが遠慮なく好き勝手なことを言っている。それが陰湿になっていないんですよ。「お前はこう思っているけど、俺はこう思っている」ということをはっきりとぶつけ合っていて。ああ、コミュニケーションってこうとるべきだよなと、僕にとっては衝撃的でした。

そこから『スモーク』の原作者であり2作の脚本も手がけたポール・オースターの小説やニューヨークの文学にハマり、ニューヨークの音楽にもハマり…。さまざまなカルチャーへ興味が広がっていきました。映画を観た翌年には実際にニューヨークにも行きました。そこでもやっぱりはっきりと言い合うコミュニケーションを目の当たりにして。「好き」「嫌い」「かっこいい」など、自分が感じたことはちゃんと口に出さないといけないと思うようになりました。

笑いながら話す信濃八太郎さん

ー映画との出会いが、その後の人生にも大きな影響を与えたのですね。

信濃さん:そうですね。もう1本、僕の価値観を変えた映画があります。1996年に公開されたウディ・アレン監督のミュージカル映画『世界中がアイ・ラヴ・ユー』です。

20代前半の頃、この映画の試写会のチケットが当たって、当時の彼女と観に行く約束をしていました。当日、映画館の入り口で待っていると、彼女が泣きながら現れ、「好きな人ができたから別れたい」と、突然フラれてしまい…。そこから彼女がどうしたか、僕がどんな行動をとったかの詳細はあまり記憶に残っていないのですが、とにかく一人で試写会を観ることになってしまったんです。

映画では、離婚した元妻のことをいまだに引きずっているウディ・アレンが、元妻の新しい家庭と一緒に旅行に行くシーンがあって。ウディ・アレンは旅行中もブーブー文句を言いながらも、なんだかんだ楽しく過ごしているんです。状況としてはカオスですが、そんなウディ・アレンの様子を観ているうちに「恋愛ってなんでもありじゃん!」と清々しい気持ちになって。「フラれたくらいで落ち込むなんて馬鹿馬鹿しい!」って思えたんです。女性にフラれて映画を観て、落ち込む間もなく2時間で吹っ切れる。そんな体験をしました。

そこから人生観も変わり、人は自由で平等なんだから、好きな人と一緒にいれば良いんだと思うようになりましたね。「人はコントロールできない」とも思えて、人を恨んだり妬んだりする感覚もなくなりました。

身を乗り出して話す信濃八太郎さん

安西水丸先生との出会いで、イラストレーターの道へ

ーイラストレーターとしては、どんなクリエイターや作品に影響を受けましたか?

信濃さん:WOWOWの映画番組『W座からの招待状』の初代案内人でもある、安西水丸先生からの影響が100%です。

安西先生との出会いは大学時代です。僕は日大芸術学部演劇学科に在籍していたのですが、なかなか馴染めず。辞めてしまおうかと思っていた頃、入り浸っていた図書館で美術学科の友人ができました。その友人に安西先生の授業に誘われて。元々、父の影響で安西先生の映画エッセイ『シネマ・ストリート』なども読んでいて、喜んで授業に参加しました。

しかも、その日はたまたま授業後に安西先生を囲む飲み会があり、僕も参加することになったんです。「これはチャンスだ!」と思って、飲み会で安西先生に話しかけに行って、映画やイラストの話をさせてもらって。そこで僕のことを面白がってくれて「毎回授業においでよ」と、「先生公認のもぐり」として認めていただきました。

当時について安西先生からは、「信濃は初対面でいきなり『僕は村上春樹よりも村上龍が好きです!』って話しかけてきた」と、お亡くなりになるまでずっとイジられていたんですけどね(笑)。

安西先生との出会いから、今に通じる道が見えてきましたね。例えば、安西先生はイラストレーターという仕事について、「一日中楽しく絵を描いて、夕方になったら映画を観て、観終わったらポケットに残った小銭で一杯飲みに行く。頑張れば、そんな生活が毎日できるくらいにはなれます」と言っていました。そこで自分のビジョンが見えてきました。

手を組んで話す信濃八太郎さん

WOWOWでの7年間のレギュラー番組出演で変化した、映画の楽しみ方

ー若い頃と今を比べて、作品の楽しみ方や見え方が変わったと感じることはありますか?

信濃さん:WOWOWの映画番組『W座からの招待状』の案内人を小山薫堂さんと7年間務めた経験によって、かなり変わったと感じます。

信濃八太郎さんが描いた『W座からの招待状』のイラスト
イラスト:信濃八太郎

当時、毎週1本の映画を3回観ていたんです。1回目は純粋な視聴者目線で。2回目はイラストを描くために画面をキャプチャーしながら。3回目は番組で何を喋ろうかを考えながら。そんなことを7年間続けていると、「映画って、なんでも面白いじゃん!」と思えるようになってくるんですよ。ストーリーが自分の好みかどうか、映像が美しいかどうかを超えて、すべての映画を楽しめるようになったんですね。

例えば、自分では選ばないようなホラー映画や高校生の青春恋愛映画とかも、番組のために観る必要がありました。3回も観ていると「この俳優さんって、あの映画にも出ていた人だ」とか、何かしら学びや気づきがあって面白くなるんです。偶然出会った作品をじっくり観ることで、映画を多角的に捉えられるようになりましたね。もしある映画を観て「つまらない」と感じるようならば、それは自分がつまらない人間だからだ、とさえ思います。

ー偶然の出会いから、新しい世界が広がっていくこともありますよね。

信濃さん:そう思います。以前、WOWOWの番組『W座を訪ねて』の取材で訪れた京都みなみ会館の吉田館長が「何歳になっても感受性は古びません」とおっしゃっていたことが印象的で。裏を返せば、自分で努力して新しいエンタメを摂取しないと、感受性はどんどん古びていくということでもあるんですよね。

信濃八太郎さんが描いた京都みなみ会館のイラスト
2023年に閉館した京都みなみ会館(イラスト:信濃八太郎)

信濃さん:だから今でも、なるべく観たことのない映画を観て、聴いたことのない音楽を聴くようにしています。最近だと、娘が買った『プラダを着た悪魔2』のサウンドトラックにハマっています。これだって自分じゃ選ばなかったであろう音楽。でもそこから今の音楽の流行りが見えてきたり、新しい発見があったりするんです。

インタビューに答える信濃八太郎さん

偶然の出会いを、長く大切にする

ー映画や音楽などを鑑賞するとき、環境づくりにこだわりはありますか?

信濃さん:音にはこだわっています。以前暮らしていたマンションのゴミ捨て場で見つけた大きなスピーカーを今でも使っています。

息子の保育園帰りにたまたま見つけたものでした。買い取るべく、貼られていた番号のお部屋に伺ったら、捨てたのはご老人の方で。「音楽が大好きなのだけど、耳が遠くなって泣く泣く手放した。使ってくれるならタダであげるよ」と言ってくださったんです。

そんな経緯でたまたま手に入れたスピーカーですが、そこから音にこだわるようになり、他のスピーカーも買い揃えて。今では自宅で映画館さながらの音響を楽しめる環境になっています。

信濃八太郎さんが長年使用しているスピーカー
長年使用しているスピーカー(写真:本人提供)

ーモノは大切に長く使うタイプなのでしょうか?

信濃さん:そうですね。モノを選ぶときは、「長く使えそうか」を基準にしています。例えばアメリカ製の文房具など、30年経っても使えるような屈強なものが多いです。使っているうちに入る年季も楽しんでいます。他にも、高校の修学旅行のときに京都で購入した一澤信三郎帆布のバッグも、ボロボロになりながらもいまだに現役で使っています。

また、モノとの出会いも映画や音楽と同様に、偶然の出会いを大切にしています。先日、取材で広島のシネマ尾道さんを訪れた帰り、たまたま通りかかった工房 尾道帆布という帆布屋さんで財布を購入しました。「絶対良い感じにボロくなってくるだろうな」とワクワクしながら(笑)。

尾道帆布の財布を手に取る信濃八太郎さん

好きな世界をもっと身近に。信濃さんが選ぶ4つのモノ

ーではここからは、WOWOW百貨店の中から選んでいただいた、いま気になるモノについて伺います。

トートバッグ レイモンド・チャンドラー ロング・グッドバイ

トートバッグ レイモンド・チャンドラー ロング・グッドバイ(商品画像)

信濃さん:『ロング・グッドバイ』には思い入れがありまして。安西水丸先生がお亡くなりになったとき、和田誠さんと山崎杉夫さんと3人で安西先生を偲ぶトークショーを行いました。その帰りに寄ったバーで、追悼の意味も込め、安西先生がお好きだった甘めのギムレットを注文したんです。そしたらバーテンダーの方が「長いお別れですね」と。小説『ロング・グッドバイ』の主人公がギムレットを好んでいたことから、そんな言葉をかけてくれたのですが、なんだか安西先生とのお別れとリンクしてしまい。

このバッグを肩に掛けてまた同じバーに行き、安西先生を思いながら同じ会話を楽しみたいですね。

¥4,180(税込)

在庫あり

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ザ・ビートルズ ニュースペーパーバッグ

ザ・ビートルズ ニュースペーパーバッグ(商品画像)

信濃さん:使い込んでいくうちに、自分だけの風合いが出そうな感じが良いですね。ニュースペーパーバッグは、その名の通り新聞配達員が新聞を入れるためのバッグのこと。『A Day In The Life』の「I read the news today, oh boy」なんてジョンの声が聞こえてきそうです。

¥8,910(税込)

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品切れ

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ーやはりビートルズには思い入れがありますか?

信濃さん:初めて洋楽にハマったのがビートルズでした。小学5年生のときに、学校のイベントで「6年生を送る会」というものがあって。6年生が体育館から退場するときに『Let It Be』がBGMで流れていました。当時は知らない曲だったのですが、聴いていたら突然涙が止まらなくなってしまって。帰宅して父に「レリビー、レリビーって曲って知ってる?」と聞いて、父の知人で音楽好きの方からビートルズのレコードを譲っていただいたんです。今も大切に聴いていますが、それが僕の音楽遍歴の始まりです。

憧れも、遊び心も。エンタメを日常に

ースポーツやアニメ関連のアイテムも選んでいただきました。

【ラコステ/LACOSTE】撥水加工テニストラックスーツ

【ラコステ/LACOSTE】撥水加工テニストラックスーツ(商品画像)

信濃さん:スポーツとはあまり縁のない生活を送ってしまってるのですが…、ガイ・リッチー監督の映画『ジェントルメン』の影響で、トラックスーツには憧れがあります。

ロンドンの暗黒街を舞台に、謎のトラックスーツ集団「トドラーズ(よちよち仲間)」が、麻薬王の大麻栽培農園を襲うストーリー。トドラーズはいかにもすぐ殺されそうなナメた態度の奴らなのですが、麻薬王を制圧していく感じが超かっこよくて!僕もジェントルメン気分を味わいたくて選びました。

¥36,300(税込)

在庫あり

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「ウルトラマン」ヘアバンド エレキング

「ウルトラマン」ヘアバンド エレキング(商品画像)

信濃さん:こちらは妻へのプレゼント用です。以前、歌舞伎座のお土産として、歌舞伎の隈取りがプリントしてあるフェイスパックをおふざけ半分で妻にプレゼントしたことがありまして。そのとき思った以上に喜んでくれたので、こういった遊び心があるアイテムも喜ぶかなと。家庭が円満じゃないと、WOWOWでの映画鑑賞も楽しめないですからね(笑)。

¥1,980(税込)

在庫あり

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取材の終わりに笑う信濃八太郎さん

偶然の出会いを、人生の楽しみに

映画や音楽との出会いが、新しい興味や価値観を連れてきてくれるように、モノとの出会いもまた、日々の楽しみを広げてくれるもの。

思い出の作品を身近に感じたり、憧れの世界に少しだけ近づいたり、誰かへのプレゼントに遊び心を込めたり。楽しみ方は人それぞれです。

信濃さんが教えてくれたのは、偶然の出会いを楽しみ、そのひとつひとつを大切にすることで、人生はもっと面白くなるということ。映画や音楽、モノとの出会いを楽しみながら、自分だけの「好き」を少しずつ増やしてみてはいかがでしょうか。

取材・文/菱山恵巳子